取引先やお客様へ訪問の予定を伝える際、「ご訪問させていただきます」と書くことはよくありますよね。
丁寧さを意識した表現ではありますが、いざ文章にすると「少し大げさに聞こえるかな?」「使い方として正しいのだろうか」と不安になることもあるのではないでしょうか。
訪問に関する敬語は似ている言い回しが多い分、使い分けを誤ると相手に硬すぎる印象を与えたり、逆に不自然な敬語になってしまったりすることがあります。
私自身、以前にメールで過剰な敬語を使ってしまい、後で見返して恥ずかしくなった経験がありました。
だからこそ、「ご訪問させていただく」がどういった条件で自然に使えるのか、そして「伺います」「訪問いたします」といった表現とどこが異なるのかを理解しておくと安心です。
本記事では、場面ごとに適切な表現を選べるよう、迷いやすいポイントを丁寧に整理して紹介していきます。
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基本の意味を丁寧に読み解く
「させていただく」には前提条件がある
「ご訪問させていただく」は「訪問する」に「させていただく」という補助動詞が付いた形です。
この “させていただく” は、単に丁寧に見せるための飾りではなく、次のような意味を含みます。
“させていただく” が含む代表的な要素
-
相手の承諾や許可があること
-
相手に配慮が必要な行為であること
-
その行為によって、自分側が恩恵(便宜)を受けること
つまり、こちらが相手の会社や自宅を訪ねる行為は、相手の場所・時間・注意を「借りる」という性質を持っています。
そのため、すでに日程調整が終わり、訪問について承認を得ている場合には自然な表現になります。
しかし逆に、
-
こちらが勝手に「行きます」と宣言しているだけ
-
許可を得ているのか不明
-
すでに毎週行っている定例訪問
のようなシーンでは “させていただく” に含まれる「許可」「恩恵」のニュアンスが弱く、違和感を覚える人もいます。
そのため、場面によっては「伺います」や「訪問いたします」に言い換えたほうが自然になることがあります。
“二重敬語では?” と誤解されやすいポイント
丁寧語の構造を知れば迷わない
「訪問させていただく」を見たとき、「敬語を重ねすぎでは?」と思う方もいらっしゃいます。
たしかに日本語の敬語には “二重敬語” があり、場合によっては誤用になることがあります。
ただ、専門的な解釈では 「訪問+させていただく」は二重敬語ではない とされます。
理由は「訪問」は一般語であり、「させていただく」は謙譲語+丁寧語の複合表現であるため、敬語が同じ方向に重なっているわけではないためです。
文化庁『敬語の指針』の考え方
“させていただく” を使うときの条件として、
-
相手の許可
-
相手の配慮
-
その行為による恩恵
がある場合に使用するのが望ましいとされています。
この条件が満たされている場面であれば、「訪問させていただきます」という表現は「礼儀を尽くした言い方」として理解されます。
ただし、次の場面では注意が必要です。
“使用すべき” と “避けたい” 場面
表現の自然さを判断するチェックポイント
以下に、使っても問題ない場面と控えたほうが良い場面を分けてみます。
◎ 適切に使える場面
-
すでに相手から訪問の承諾を得ている
-
相手の都合に合わせて訪問する
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カレンダー調整の結果、正式に日程が決まった
-
初回訪問・挨拶回りなど、相手側の時間を頂戴する性質が強いとき
× 避けたほうが良い場面
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自分の都合で勝手に訪問日を決めている
-
相手が承諾していない
-
社内の単なる移動で、相手の許可が不要
-
定例会議のように毎回自動的に行くことが決まっている場合
→「伺います」「訪問いたします」が自然
同じ言葉でも、状況の違いによって相手が受け取る印象は大きく変わります。
自然な言葉選びのためには、この “前提” を常に意識しておくことが大切です。
「伺います」との違いを知ると表現が選びやすくなる
似ているようで意味が違う二つの敬語
ここで、「伺います」との違いを見てみましょう。
訪問の敬語をスマートに使いこなす上で、両者の違いを理解することは非常に重要です。
「伺います」は純粋な謙譲語
許可のニュアンスは含まれない
「伺う」は、自分の行為をへりくだって表す謙譲語です。
そのため、行為の性質に「相手の許可」や「恩恵がある」という前提は含みません。
● 例
-
「明日伺います」
-
「午後にそちらへ伺います」
どちらも問題なく、シンプルで上品な表現です。
「ご訪問させていただく」は丁寧度が高め
承諾・配慮のニュアンスが加わる
一方、
-
ご訪問させていただきます
-
ご説明のため訪問させていただきます
と書くと、「許可」「恩恵」を含む丁寧度の高い言い方になります。
そのため、フォーマルな文書や初訪問、公式性が高い場面で用いると自然です。
二つを比較すると…
| 表現 | ニュアンス | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 伺います | 控えめ・謙譲・自然 | 会話、日常の訪問、社内、定例業務 |
| ご訪問させていただきます | 許可・恩恵・丁寧・格式がある | メール文書、初訪問、取引先 |
この違いを理解しておくと、ビジネスの場でどちらを使うべきか判断しやすくなります。
なぜビジネスではこの表現がよく使われるのか
丁寧さが重視される場面との相性
社外の担当者や顧客への対応では、時間を割いてもらうことや、こちらの説明のために場を設けてもらうなど、「相手の配慮」に支えられる場面が多くあります。
そのため、「ご訪問させていただく」=相手への敬意と感謝を込めた表現として使われることがよくあります。
● この表現が好まれる背景
-
自社の印象を大切にしたい
-
初対面の相手に失礼のないようにしたい
-
丁寧な文章で信頼感を与えたい
-
取引先と円滑な関係を築きたい
このような理由から、ビジネス文書では比較的よく使われるのです。
シーン別で考える「最適な敬語」
相手によって言い方を調整することが大切
敬語は「相手に合わせる」ことで自然に機能します。
訪問時にも、相手が上司なのか取引先なのか、社内なのか社外なのかで言い換えをすると印象が変わります。
● シーンごとに見るおすすめ表現
◎ 取引先への正式な連絡
→ ご訪問させていただきます
丁寧で柔らかく、相手を立てる表現。
◎ 社内の上司へ予定を伝える
→ 伺います
上司相手とはいえ、「させていただく」は重く聞こえがち。
◎ 同僚との調整、軽い打ち合わせの案内
→ 訪問します/お邪魔します
日常のやりとりでは簡潔な表現が自然。
◎ 初回訪問や大切な商談
→ ご訪問させていただきたく存じます
文書でよく使われる、最も丁寧な言い方。
ここまでの総まとめ
丁寧さよりも「適切さ」を大切にする
「ご訪問させていただく」は丁寧で柔らかい印象を持つ一方、条件が整っていないと不自然になりやすい表現です。
この表現を自然に使うためには、
-
相手の了承があるか
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相手の時間や場所を借りる行為か
-
文書のフォーマル度が高いか
-
繰り返し訪問する場面かどうか
といった点を判断することがポイントになります。
また、敬語の良し悪しは「丁寧さ」だけでは決まりません。
むしろ、状況に合った適切な表現を選ぶことが、相手への誠実さにつながります。
「伺います」「訪問いたします」「ご訪問させていただきます」
これらを使い分けられるようになると、ビジネスの場での表現の幅がぐっと広がります。
※本記事では一般的なビジネスマナーの観点から説明しています
